ポンポン船はどうして走るのだろう



ポンポン船はローソクの炎で加熱された水が水蒸気になると1000倍以上に体積が増加するので その時の力を利用して進みます。

ポンポン船が走っているときに、ポンポン船の後ろから出ているパイプの付近を見ると水が波うっているのが分かります。  このとき、パイプの中では水がパイプの外へ押し出されたり、中へ吸い込まれたりしています。

 どうしてこのような動きをするのかを調べるために次のような実験をしました。 図のように一方の端を閉じた耐熱ガラス管に水を満たし、口の開いているガラス管の端を水の入った容器の中へ入れます。 こうしておいて、閉じた端の近くを小さな炎で加熱します。


このときの様子をガラス管を拡大してみると、
1.加熱されている部分の水は沸騰して水蒸気となり、強い力でガラス管の水を出口の方に押し出して行きます。
2.こうして、水蒸気の一部は炎から離れた冷たいガラス管の方に行くので、そこで冷やされて水に戻り、 体積が1000分の1以下になるため圧力が急に下がり、今まで出口の方へ押し出されていた水は逆に中へ引き戻されてきます。
3.引き戻されてきた水が炎で加熱されているところまで来ると再び蒸発して体積が大きくなるので、 1.の状態に戻って、水を出口の方に押し出します。

こういう動作が繰り返されて、ガラス管の中では蒸気と水の境目は行ったり来たりの往復運動をします。 この運動を自励振動と呼んでいます。

このときの水の往復運動は自動車のエンジンのピストンと同じ動きをしています。 ガラス管に水を入れて加熱するだけで、自動車のエンジンと同じ働きをする蒸気エンジンが出来ているのです。 ポンポン船ではこの自励振動によって、パイプの出口で水が出たり入ったりしています。

金属パイプをコイル状に巻いたパイプ式のポンポン船ではコイル状の部分をボイラーとして加熱するので、 コイル内の水が一挙に蒸発し、真っ直ぐなガラス管より沢山の水蒸気が発生して、 水を出口の方向へ押し出すのでパイプの出口では沢山の水を吹き出し、その反動でポンポン船は進みます。 しかし、その直後に水は逆にパイプに吸い込まれて行くので、このときには船は後に引き戻されるのではないかと考えられます。
ポンポ船を動かす力はパイプの中を動く水の速さ(流速)と水の量(質量)を掛け合わせた運動量という値で決まります。
蒸気が水を押し出し始めるきは蒸気の力が強いのでパイプ内の水は勢いよく動きます。また、パイプの中には水が一杯に詰まっている状態なので、 水の量も多いので、この時の運動量は大きな値になり、その反動(反作用)で船を前に推し進めます。
逆に、水がパイプに吸い込まれるときはパイプの中の水が外に押し出された後なので、パイプの中の水の量は少ししか有りません。 そのため、水が吸い込まれる時の運動量は押し出される時よりも小さな値となります。この運動量の差によってポンポン船は前進します。

ダイアフラム式のポンポン船も進む原理はパイプ式と同じですが、 ダイアフラム式エンジンのボイラーは金属製のお皿のような容器の上に薄い金属板(この金属板をダイアフラムと言います)の蓋が被せてあるので、 ボイラー部はパイプの場合と違った動きをします。

1.ボイラーとパイプの中を水で満たして加熱する。
2.ボイラー内の水は沸騰して水蒸気になるので圧力が高くなり、パイプの水を押し出すと同時にボイラーの蓋の薄い金属板を外の方へ押し上げます。
3.パイプの出口方向に出てきた水蒸気が冷やされて水に変わるとパイプとボイラー内は圧力が下がり、 水はボイラーの方に逆戻りし、蓋の金属板は内部の方にへこみます。
この動作が繰り返されて、ポンポン船は進みますが、このときボイラーの蓋の金属板がふくれたりへこんだりと動くので、 ポンポン船独特のポコポコという音を出します。

<ポンポン船の推進力についての補足>
ポンポン船の推進力については多くのホームページなどで次のような説明をしています。
「水がパイプより噴き出すときはパイプと平行に真っ直ぐ後ろの方向へ吹き出すのでその反動で船を前に押し出すが、 パイプへ水が吸い込まれるときはいろんな方向から吸い込まれるので、船が後退する方向の力はほとんど働かないので船は前進する。」
私も以前はこの説明で納得していたのですが、東北大学の米村茂さんと菊川豪太さんがホームページ[http://www.jsme.or.jp/ted/NL53/TED-Plaza_NL53.htm]に 掲載されている「ポンポン船とスポイト船の推進原理」という論文に「パイプの外側の流れの形状で推進力を議論することはできない。」との理論を述べておられ、 同時に「ポンポン船の推進力はパイプ内を移動する水の運動量の差である。」と詳細な理論式を用いて説明しておられます。
私はこの論文の内容に納得し、上記のような推進力の説明に変更しました。
ポンポン船のパイプ内の水の量や流速は常に変化しているので、上記の説明は完全ではありませんが、正確な運動量を求めるのは 大変複雑になりますので、簡単で分かりやすい内容にするために、最も典型的な部分のみを示しています。