家庭用ビデオカメラを活用した運動の記録
東大阪市立花園中学校 浅 岡 末 治
箕面市立第一中学校 永 谷 惠 一
大阪府教育センター 平 田 允
1.はじめに
私たちが日常生活をおくるなかで,さまざまな物体が運動している.また私たち自身も常に運動している.機械や道具の動き,天体の運動,そして私たち自身の生活も,力学の法則の上に成り立っている. 理科の学習において,「力の学習」や「運動の学習」は,基本的かつ重要な学習である.運動の学習はまず運動を観察し,記録するところから始められる.ゆっくりした運動であれば記録しやすく理解もしやすい.一方速い運動を記録するには工夫がいる.運動の学習では,打点記録タイマーが一般的であるが,打点記録タイマーは直線運動以外は利用に工夫がいる.
教科書等では,物体の落下や振り子などの運動の記録にはストロボスコープを用いた写真(以後ストロボ写真という)が利用されている.ストロボ写真を使って運動の様子を観察すると,速さの変化を直感的にとらえやすく,視覚的な興味を引く.しかし,自分達でストロボ写真を撮影し,その写真を活用するためには,暗室内で撮影して,現像するという操作が必要であるため,学校現場では一般的ではない.
最近は,家庭用デジタルビデオカメラ(以後DVカメラという)の普及がすすみ,学校においても,DVカメラが授業や学校生活の記録に多く活用されている.
DVカメラの画像はパーソナルコンピュータ(以後パソコンという)に取り込んで編集・加工することが可能であり,この手法を利用すれば,教室で生徒に運動を見せながらビデオ撮影し,その場で画像を再生して,運動を解析したり,画像処理をした画面をリアルタイムで生徒に提示することが可能になってきた1),2).そこで,DVカメラを使用して,物体のいろいろな運動を記録し,いくつかの運動において,記録された画像の解析をすることにより,運動の規則性や法則についての学習に対するDVカメラの利用法を検討した.
2.ビデオカメラの画像生成方式
ビデオ信号の送受信について,日本で採用されている規格であるNTSC方式では次のように定められている3).
・水平同期信号の周波数:15.75kHz
・垂直同期の周波数:60Hz
この規格では,1秒間に60枚の画像が送られ,1枚の画像は262.5本の走査線から構成されていることになる.NTSC方式のテレビでは画面のちらつきを目立たなくするために,262.5本の走査線で描かれた2枚の画像で1枚の画面を構成するように決められており,1枚目の走査線の間に2枚目の走査線が挿入されるインターレース走査と呼ばれる走査を行い,結果として525本の走査線で画面を表示している.ここで,走査線262.5本で描かれた画像の単位をフィールド,1フィールドの画像2枚で構成された完全な画面の単位をフレームと呼んでいる.したがって,ビデオカメラでは1フィールドは1/60秒,1フレームは1/30秒間隔で撮影した画像が得られることになる.
一般にDVカメラで撮影した画像をコマ送りで再生すると,1フレームずつ再生され,前半の1フィールドの画像が表示される場合が多いが,1フィールドずつ再生される機種もある.また,画像取り込みソフトウエア(以後ソフトという)でも,1フレームの内のどちらかのフィールドを取り込むものと,2フィールドを重ねて取り込むものがあるので,運動の速さによって使い分けた.
3.運動の撮影
(1) 使用機器等の条件
DVカメラ:
市販されているほとんどのDVカメラは運動撮影に十分な性能を備えている.本研究では Panasonic
NV-MX2500,Sony DCR-TRV10及び Sony DCR-TRV30を使用した.
パソコン:メモリは64MB以上,ハードディスク空き容量が700MB以上あり,DV入力端子が装備されているパソコンを使用した.
DVケーブル:DVカメラと,パソコンを接続するケーブルは,IEEE1394に準拠したコネクターが使用されている.コンピュータによってコネクターの形状が異なる場合があったので,適合するケーブルを選び使用した.
ビデオ画像をパソコンに取り込むためのソフト:ビデオ編集ソフトであるVideoStudioを主として使用したが,パソコンにプリインスツールされていた,Giga
Pocket等のソフトも利用した.
パソコンに取り込んだ画像を処理するためのソフト:写真等の画像を編集するソフトとして市販されているPaintShop Pro,Photoshop Elements及びPhotoshop
Deluxeを使用した.
(2) 運動撮影に当たって留意した事項
ビデオカメラの撮影条件設定:一般の風景撮影に準じて撮影したが.運動の速度に応じて,シャッター速度を調節し,鮮明な画像が得られるように注意した.
照明:明るい室内や室外で撮影するときは照明は使用しなかった.室内が暗い場合や,シャッター速度を速くすると,光量が不足する場合があったので,そのときは照明を点灯して撮影した.
背景:被写体と背景は,色彩が似ていると,解析や画像処理が難しくなるので,コントラストが付くように,背景の色を選択した.運動の変化を定量的に測定するときは,メジャーや目盛りを引いたボードを背景に置いた.この際,目盛りは物体の運動方向と平行になるように確認した.
三脚:カメラを静止させるために必ず三脚にカメラを固定して撮影した.この際,カメラの光軸は物体の運動方向と直交させるようにカメラを配置した.
4.パソコンへの画像取り込みと画像処理
(1)
DV画像のパソコンへの取り込み
DVカメラで撮影した画像データーのパソコンへの取り込みは次のような手順で行った.
@ IEEE1394ケーブルでDVカメラとパソコンを接続する.
A 画像取り込み用のソフトを起動する.
B DVカメラを再生して,必要な画像を表示させ,一時停止にする.
C ソフトの指示に従って,パソコンに取り込む.
D 取り込んだ画像は静止画像として名前を付けて保存する.
E 以上の操作を必要回数繰り返す.
(2) 画像処理4),5)
パソコンに保存された画像を,ストロボ写真のように表示するには,多くの枚数の画像を重ね合わさなければならない.一般に画像の上に画像を重ね合わせると,下の画像の上に新しい画像が上書きされて,下の画像は消えてしまう.このような状態を解消するために,レイヤー(Layer)機能が用いられる.
レイヤー機能は透明なシートを重ね合わせたようなしくみになっており,各々のレイヤーの画像は独立に存在するが,重ね合わすと1枚の画像として見ることができる.レイヤー機能を利用して,重ね合わせた画像をストロボ写真のように表示するには,最も下の画像だけに背景を表示させて,それより上に重ねる画像は被写体だけを表示し,背景部分は透明にする必要がある.このためには,画像の必要部分を選択範囲に指定し,選択範囲を透明にしたり,隠したりするマスク機能を利用して,指定した部分だけを表示させ,残りの部分を透明にする.この操作を繰り返すと,背景の上に被写体だけが,順に貼り付けられたような画像を作ることができる.
5.運動を定量的に観測する場合
等速直線運動の速度測定,等加速度直線運動の加速度測定,速い振動の振幅や周期の測定あるいは反発係数を測定するときの跳ね返り最高点の測定などは画面をスロー再生又はコマ送りで見ることで目的を達することができる.
(1) 等速直線運動
水準器でエアートラックが水平になるよう注意深く微調整し,エアートラック上の滑走体が静止を続ける状態にした後,滑走体を手で軽く押して,運動させ,この運動をDVカメラで撮影した.撮影後,DVカメラをコマ送りで再生し,滑走体の移動距離を読みとった.結果を図1に示した.
図1 滑走体の移動距離と時間の関係
移動距離と時間との間に直線関係が得られた.これは,滑走体が等速直線運動をしていることを示しており,エアートラックが精密に作られ,抵抗がきわめて小さいことを示唆している.
(2) 等加速度直線運動
エアートラック上の滑走体とおもりを糸で結び,おもりを落下させた.このとき,おもりと滑走体は同じ等加速度直線運動をすると予想される.この運動をDVカメラで撮影し,3フレーム間隔で,滑走体の移動距離を測定した.使用した物体の質量は滑走体72.1g,おもり8.6g,糸0.6gであった.
結果を図2,図3に示した.
図2 滑走体の移動距離と時間の関係
図3 滑走体の速度と時間の関係
図3より加速度の値を求めると,93cm/sec2であった.重力の加速度(g)を980cm/sec2とし,糸の影響を無視して,理論値を求めると
a = 8.6g/(72.1+8.6)= 104p/sec2
となり,結果は理論値より,少し小さな値となっている.これは滑車の摩擦や糸の質量等が影響しているものと考えた.
(3) 鋼球の自由落下運動
自由落下している鋼球を撮影し,画像をコマ送りで再生して,各画像の落下距離を読み取った.使用した鋼球は質量151g,直径3.3cmであった.測定結果を図4,図5に示した.
図4 落下距離と時間の関係
図5 落下速度と時間の関係
図5の落下速度と時間の関係を表すグラフより,この直線の勾配を求めると,978(cm/sec2)となり,重力の加速度(g=980cm/sec2)とほぼ一致している.図5において,直線が原点を通らないのは,DVカメラの1フレームの撮影間隔が1/30秒であるため,落下開始時と第1フレームの撮影開始時に最大で1/30秒の差が出るからである.今回のように直線の勾配を求める場合には問題にならないが,運動開始からの時間を正確に求めなければならない測定には無視し得ない値となる可能性があり,DVカメラを用いた計測の弱点の一つである.
(4) 滑走体の衝突
エアートラック上で,
滑走体A(質量72.1g),B(質量82.5g)を軽く手で押してから手を離し,滑走体A,Bを衝突させ,このときの運動を調べた.実験結果を図6に示した.
図6 滑走体の衝突前後の変位と時間の関係
図5より,A,Bの衝突前後の速度を求め,衝突前後の運動量を計算すると,表1のようになった.
表1 衝突前後の速度及び運動量
|
|
速 度
(cm/sec) | |
|
衝突前 |
衝突後 | |
|
A |
0.57 |
−0.70 |
|
B |
−0.76 |
0.34 |
|
運動量(g.cm/sec) |
−21.6 |
−22.4 |
表1の結果より,この衝突では衝突前後での運動量の変化はきわめて少なく,運動量保存の法則が成り立っていることが分かった.
6.運動を視覚的に観察する場合
振り子やボールの反発などの運動のように速さと方向が変化する運動は,ストロボ写真のように一枚の画像に変化の様子を記録すると,運動を視覚的に詳細に観察できるので,運動の理解を深める手段として有効である.
(1) バネによる縦波の移動
縦波の運動は横波に較べて,理解しにくい運動である.バネを使用すると,縦波の運動を見ることができるが,大きく柔らかいバネを用いないと,変化が速すぎて観察しにくい.図7はDVカメラで撮影した画像を1/10秒間隔で、順番に貼り付けたものである.縦波が移動していく様子がよく分かる.
図7 バネを移動する縦波
(2) 斜面を転がる球の運動
斜面を転がる球の運動はガリレイが等加速度運動の研究に用いた有名な実験である.図8は傾斜角度を10度に設定した金属製のレールの上を転がり落ちる鋼球を撮影し,1/15秒間隔で表示したものである.図8の画面を見ると,球の速さが刻々と変わる様子が実感できる.
図8 斜面を転る球
図8では斜面の背後に1cm間隔で白黒に塗り分けた用紙を貼って速度の変化を実感しやすくしたが,速度の変化を定量的に観察する目的には不十分であった.定量的に加速度を計算する場合は,作成した画面へ,後ほど,図9のようにスケールを貼り付けて距離の変化をスケールの目盛りから読みとり,実際の距離は実測値とスケールの目盛りとの比率を求めて,比例計算するという方法を採った.
図9 目盛りを貼り付けた斜面
(3) 自然落下
自然落下運動は速度が速く,その変化の様子を目で追うことは不可能であるが,DVカメラで撮った画像をスロー再生したり,図10のように画像処理することにより,落下するに従がって速さが速くなる様子がよく分かる.この画面の格子目は10cm間隔で、ボールは1/30秒間隔で表示している。
図10 ボールの自然落下
(4) 水平投射
水平に投げ出された物体は「自然落下と水平方向への等速運動が合成された軌跡を描く」と教えられるが,その内容の理解はきわめて難しい.図11は水平方向への初速を変えた2個のボールの運動を1/30秒間隔で表示したものである.この図を見ると,水平方向は等速で運動しており,垂直方向は落下と共に速度が増している様子がよくわかる.
図11 水平方向に投げ出されたボールの運動
(5) 等速直線運動をする物体からの落下
図12は自転車を一定速度で走らせている人が,手に持ったボールを自然落下させた時の運動を撮影し、1/30秒間隔で表示したものである.この画面から,ボールは常に手の真下を落下していることが分かり,水平に等速で運動している物体が自然落下する場合,水平方向の運動も継続することがよく分かる.また,図11と較べることで,このボールの運動も水平に投げ出された運動と同じであることが分かる.
図12 等速で走る自転車から落下するボール
(6) ボールの跳ね返り
図13はスーパーボールをゆっくりと水平に投げ出して,実験台上を跳ねる様子を1/30秒間隔で表示したものである.跳ね上がる高さが順に小さくなる様子がよく分かる.
図13 ボールの反発
(7) 振り子
図14は目盛板を背景にして,振り子を振らせ,1/15秒間隔で表示した画像である.この画像から,振り子の運動は「振幅の両端付近はゆっくり動き,中 心へ行くほど速くなる」ことが実感できる.図15のように振り子を吊した糸を途中で止めても,振り子は左右同じ高さまで戻る.このことよりエネルギー保存の法則を実感させることができる.
図14 振り子の運動
図15 糸の動きを抑制した振り子の運動
7. おわりに
運動の学習において,数式を与えられて,その動きを具体的にイメージすることはきわめて難しいが,画像を見ると簡単に理解できる場合が多い.その意味で運動の変化を視覚化することは生徒の理解を深めるのに効果的である.
本研究ではDVカメラとコンピュータを利用していろいろな運動を定量的に観察する方法と画像化して観察する方法を検討したが,当初の目的はほぼ達成でき,授業等で利用することが可能であることが分かった. DVカメラの代わりに,普及が著しいデジタルカメラの動画モードを利用すれば,より身近に同様の効果が期待できるものと思われる.
近年,機器のディジタル化とパソコンのマルチメディア化が急速に進んだため,パソコンを介して種々のメディアの情報を取り入れ,加工して利用できるようになってきたので,運動の分野だけでなく,音や光の分野等でもコンピュータを利用した教材作りに取り組んでみたいと考えている.
引用・参考文献
1)松本宗久:物理教育,45,357(1997)
2)田中正樹:全国理科教育センター研究協議会並びに研究発表会物理部会研究発表集録(2001)
3)松村南:トランジスタ技術,192(2000)
4)可知豊:Paint
Shop Pro 7J デザインテクニック,ソシム株式会社(2000)
5)鋤柄よしこ:Photoshop Elements簡単入門,成美堂出版(2001)