ガラス管を使ったポンポン船作り

                                

                 枚方市立楠葉中学校        水 本    豊  

大阪府教育センター        樋 口 真 須 人

大阪府教育センター        平 田    允 

 


 1.はじめに

 生徒に理科の教材を提示する場合, 生徒がその教材に興味・関心を示し,意欲的にその教材に取り組もうとするものであることが重要な要素である. その意味で,おもちゃのポンポン船(以下ポンポン船)は生徒が見た場合に感動を覚え, その動きに興味・関心を持たせることができる身近な教材と考えられる. そこで,種々のエネルギーを利用する動力やエネルギーの変換等を考えさせる教材としてのポンポン船作りを検討した.

 

 2.ポンポン船の動き

ブリキで作ったポンポン船は現在ではほとんど見られなくなったが,アルミパイプを図2のようにコイル状に巻き, 図3のように組み立て,ロウソクなどで加熱すると水を振動させながら進む.その推進力はどのようにして生まれているのだろうか. 一般的には次のように解釈されている1)

@パイプ内の水が加熱されることにより水蒸気が発生し,水が水中に噴出される.

A水の慣性により水が出すぎるために,パイプ内が負の圧力となり水が吸入される.

B@〜Aが繰り返されることにより船が前進する.  

 

図1 市販のポンポン船            図2 コイル状に巻いたアルミパイプ            図3 試作したポンポン船

 

pon-01

pon-03

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.内部の見えるポンポン船の実験

 シリンダー内部を観察するためには,まず第一に透明であり,かつ

耐熱性を持ち,温度変化にも強い素材でなければならない.当初は,

石英ガラス管の使用を考えたが,その加工は難しく,一般の小・中学

校にある器材では加工できないものであった.そこで硬質ガラス管の

利用を検討した.

 熱伝導率がアルミニウム(240W・m⁻¹・K⁻¹)と硬質ガラス1W・

m⁻¹・K⁻¹)では20倍以上も違うことから,アルミパイプ内での挙

動が正確には再現できない恐れもあったが,「透明性」を重視し,硬

質ガラス管を用いて実験を行った.

pon-04

⑴ コイル状に巻いたガラス管を用いた実験                図4 実験1の装置

[実験1]                                                                 

ガラス管を図2と同様に巻き,図4のように開口部を水に浸し,ガスバーナーにより加熱し内部の変化を観察した.

[結果]

ガラス管内での水蒸気の発生と,それにともなう振動が観察された.また,加熱が進むにつれて水蒸気部分の体積が増大し,その後の突沸による多量の水の噴出,吸入による水の入れ替えが観察された.これは,どちらもアルミパイプ船においても観察される現象である.このことから,ガラス管シリンダーは,アルミパイプシリンダーに近いモデルとして考えられる.

 

⑵ ガラス直管を用いた実験                                       

コイル状に巻いたガラス管はポンポン船と同じ構造で、生徒に管内の現象を見せるのには都合がよいが、加熱場所が複雑になり、自励振動を安定して再現して観察するためには不十分な面があった.

ガラス直管の一部を加熱した場合でも自励振動は発生する.そこで,最も単純な形状で自励振動現象を観察し,持続した自励振動を発生させる条件を知ろうとして,次のような実験を行った.

[実験2] 

図5に示す装置を組み立て,一方を閉じたガラス直管を水平に保ちガスバーナーで加熱し,発生する振動をVTRで撮影し,スロー再生によって振動数を測定した.外径6mm,内径4mm,全長700mmのガラス管を使用した.

pon装置[結果]

表1 開口部より600mmを加熱したときの振動数

  振 動 数 (Hz

平均 

6.3

6.1

6.2

6.3

6.1

5.9

6.2

 

表2 開口部より200mmを加熱したときの振動数                            

  振 動 数 (Hz

平均

99. 

9.3

12.0

10.5

12.2

10.0

10.7

 

 

図5 実験2の装置

 

以上の実験結果より,加熱部から開口部までの距離が長くなるほど振動数は小さくなる傾向にあることが推定される.しかし,ガスバーナで加熱すると,炎が安定せず,データのばらつきも大きいので,加熱量を一定にさせるために,次のように装置の一部を変更して実験を行った.

[実験3]

実験2の装置の加熱部にニクロム線を巻き,ニクロム線への通電量を変化させて振動の発生状況を観察した.加熱場所は開口部より200mmのところとした.

[結果]

 異なった管径のガラス管における振動発止状況を表3,表4に示す.                         

表3 外径5mm,内径2.6mmガラス管       表4 外径6mm,内径3.7mmガラス管

通電量(W)

振動状況

1.3

加熱量不足で沸騰せず

4.5

1Hz程度で緩やかに振動

9.8

気液界面が緩やかに動き加熱開始3分後より振動開始

15.0

安定して振動する

27.5

安定して振動する

39.0

安定して振動する

52.5

気液界面が加熱点より45mmのところで停止し時々振動する

通電量(W)

振動状況

3.0

加熱量不足で沸騰せず

6.8

蒸発はするが振動せず

11.6

安定して振動する

17.5

安定して振動する

22.5

気液界面が加熱点より40mmのところで間欠的に振動する

35.0

気液界面が加熱点より60mmのところで停止しほとんど振動しない

46.0

気液界面が加熱点より70mmころで停止しほとんど振動しない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

 

 

以上の結果より,安定して振動させるには加熱量を一定の範囲内に保つ必要があり,加熱量が弱くても強過ぎてもいけないことが分かる.これはアルミ管で作ったポンポン船においても,強く加熱し過ぎると,安定して進まないことと符合している.

[実験4]

実験2の結果を詳しく調べるために実験3と同様の装置を用いて,数種の管径のガラス管で加熱場所を変化させて発生する振動の振動数をストロボと同期させる方法で測定した.

 

[結果]

 各ガラス管での加熱距離と振動数は表5〜表8のとおりである。

 

pon-06表5 外径4mm 内径1.8mmの軟質ガラス管を8Wで加熱したときの振動数

距離(mm)

15

20

30

40

50

振動数(z)

21.2

17.0

15.3

14.7

表6 外径5mm 内径2.6mmの硬質ガラス管を16

で加熱したときの振動数                           

   

距離(mm)

15

20

30

40

50

振動数(z)

21.7

20.0

18.7

17.3

 

表7 外径5mm 内径2.2mmの軟質ガラス管を16

   で加熱したときの振動数

距離(mm)

15

20

30

40

50

振動数(z)

20.5

18.7

16.3

14.8

                                     図6 加熱距離と振動数の関係

表8 外径6mm 内径3.7mmの軟質ガラス管を18

   で加熱 したときの振動数

距離(mm)

15

20

30

40

50

振動数(z)

23.3

18.7

16.7

   

 以上の実験において,加熱点から開口部までの距離が,15cm以上のとき,安定した振動が発生し,加熱点から開口部までの距離(l)と振動数(n)との間には図6に示すように

  nkl-a   (1)  

の関係が成立しており,振動数は距離の増加に対して指数関数的に減少している.このことは実験2における加熱点から開口部までの距離が長いほど振動数が小さくなり(遅い振動),加熱点から開口部までの距離が短いほど振動数が大きくなる(速い振動)という推定が正しかったことが確認された.なお,開口部よりの距離が15cm以下になると,安定した振動が発生し難くなる.この傾向はガラス管の内径が大きくなるほど強く,内径が5mmなると,加熱場所にかかわらず安定した振動が発生し難くかった.

 

⑶ 試験管を用いた実験

ガラス直管を用いた実験では管の内径が大きくなると,振動数20z前後の速

い振動は発生し難くなり,1Hz前後のゆっくりした振動が発生する.ゆっく

りした振動においてはガラス管内部の状態が詳細に観察できるので,試験管

を用いて振動発生時の内部を観察するために次のようpon-07な実験を行った.

[実験5]

図7のように水を満たした試験管内径2cm長さ18cm)の開放部をビーカの

水中に浸し,先端部をバーナーの小さな炎で加熱した.

[結果]

加熱を続けると,水蒸気が発生し,気液界面が徐々に開口部方向に移動する

が,しばらくすると,界面は一定の場所で,静止するか,振動する.静止し

ている場合は,水蒸気の部分の試験管の壁面を少し冷やすと,振動を開始す

る. 振動は,振幅が大きく1Hz前後の振動数で振動する.加熱の具合によっては20z前後の振動数で,            図7 実験5の装置     

周期的に振動する場合もあるが,この振動は安定せず.

すぐにゆっくりした振動に移行する.        

ゆっくりした振動が発生して,液面が開口部に移動したときは試験管内部の図8aの部分で蒸気が凝縮して水滴が発生している.また,液面が先端方向へ戻ってきたときには,b部で水が気化して水蒸気が発生しており,蒸気によって水滴がはねとばされる状況が観察される.

pon試験管 以上の観察より,図8に表示した部分に蒸発部と凝縮部があることが分かり,

この振動は,蒸発→膨張→凝縮→圧縮の状態が繰り返される熱機関としてのメ

カニズムを持っていると推定され3),振動発生のメカニズムは以下のように考

えられる.

@高温部(蒸発部)で水が蒸発し,蒸気の圧力が高まる.

A界面が開口部方向に押し出される.

B低温部(凝縮部)で水蒸気の一部が凝縮し,蒸気の圧力が低下する.

C界面は逆戻りし,蒸発部まで界面が戻る.

 以上の@Cの状態が繰り返されて振動を続ける.

 

⑷ 管内部の温度測定                               

振動発生時の水蒸気の温度変化はどうなっているかを知るために次のような実  図8 熱機関としての蒸発部と凝縮部

験を行った. 

[実験6]

 ガラス管の側面に直径1mmの穴を開け,熱電対(銅―コンスタンタン,  

pon-090.2mm径)を穴より垂直に入れ,両端を開放したガラス直管の一部を,ガ

スバーナーで加熱したときの水蒸気部分の温度をデジタルメータで測定し

た.外径6mm,内径4mm,全長700mmのガラス管を使用した.

[結果]                                           

安定した振動をしているときのメーターの表示は100.099.9℃を示し,

突沸様の振動をしているときのメーター表示は上記の範囲を多少上回る

数値が観測された.水の蒸気圧は100℃で101.3kPaであるが,温度の

上昇によって急激に増加し4)105℃では120.2kaに達する5).従って,

水蒸気の温度は膨張・圧縮の圧力変化を考えても,数度以上の変化は起こ

らないものと考えられる.さらに,熱電対の熱容量およびデジタルメーター      

のサンプリング速度(約8.3回/秒)から考えると,膨張・圧縮時の温度を

正確に追随して計測しているとはいえず,測定結果の揺らぎより,膨張・圧縮

による,温度の変化はあるものと推定されるが,その変化は大きくないものと思われる.   図9 実験6の装置

 

 4.授業への適用

 理科の指導において,配慮すべ点は

1 生徒に関心を持たせる.

2 目的意識を持った観察,実験を行わせる.

3 科学的に調べる能力と態度を育てる.                                  

4 科学的な見方や考え方を養う

の4点にある.

授業の扱いとしては,3年時の単元「運動とエネルギー」の「エネルギーの移り変わり」や,1年時の単元「物質の変化」の「状態変化」の発展として,また選択授業やクラブ活動などで扱えると考えている.そこで,ポンポンを教材として指導するに当たっては次のような順序を考えた.

1 市販のポンポン船を見せる.

2 アルミ管を使ってポンポン船を作り,そのポンポン船を実際に走らせてみる.

3 作ったポンポン船の走る様子(パイプの振動や水面が波立つこと)を観察し,どのような仕組みで走っているのかを考える.

4 ガラス管ポンポン船を使って,ガラス管内の様子を観察する.

5 同じ動きがガラス直管でも起こることを演示し,このような現象を自励振動と言い,自然界ではいろいろなところで自励振動が発生しているとして,黒

板にチョークを押しつけて引くときにカタカタと鳴る現象や,旗が風にはためく現象などを例示し,その他の身近な現象で自励振動と思われるものをあげさせる.

6 自励振動は何らかのエネルギーの変換を伴うものなので,いろいろな現象についてどのようにエネルギーが変換されているかを考えさせる.

7 自動車や単車のエンジンについてエネルギー変換の立場から考えさせる.

8 時間が許せば,発展として管径や管長を変えたガラス管による実験を行い,自励振動が起こりやすい条件を探るなど,ポンポン船についての考察を深めさせたい.

 

. 授業実践結果

今回は2年生の教材として,ポンポン船の動作原理を理解させることを主眼とした授業を実施した.

ポンポン船の船体には発泡スチロールトレイを使用した.これは家庭でも手に入れやすく,かつ使用後はそのままリサイクルに出せる点を考慮した.

ほとんどの生徒はポンポン船の存在を知らず,市販のポンポン船を提示した段階ではあまり強い関心は示さなかった.しかし,アルミパイプでの製作には熱心に取り組み,ポンポン船を動かして観察する段階では,非常に強い興味を持って実験に取り組んでいた.

アルミ管ポンポン船の観察からは,「パイプや水面が振動していること」や,「パイプから水が断続的に噴出していること」が観察される.この時点で,どうしてこのような現象が起こるかを考えさせたところ,「水が温められることにより膨張して噴出

する.」と言う意見と「水蒸気の発生により水が噴出する.」とする意見がほとんどであった.その後,ガラス管ポンポン船を観察させたところ,大半の生徒が「水蒸気の膨張と凝縮」にはじめて気付き,次のような感想をもたらした.

pon授業a                                                                                                            

pon授業b

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10 学習の様子

 

pon11

・水の力で動くのですごいなあと思いました.パイプの中の水が出た     図11 生徒作品例

り入ったりしているのがわかった.              

・本当にあんな簡単な仕組みで動くとはおもわなかった.パイプの中で

は,あんな絶妙な動きをしていたなんて感動した.

・ すごいと思った,内部が見えて,仕組みがよくわかった.

          最初は,どうなっているのかさっぱりわからなかったけど,見てわ

かると「おおっ」て感じになった.

          授業なのに,遊びみたいで楽しかったです.物理と聞くとむずかしい

イメージがあったのですが意外に楽しかったです.

 以上は代表的な感想であるが,このほかにも多くの生徒が感動し,強

い興味・関心を示した.時間をかけた説明よりも,ガラス管の中の様子       を観たときに理解できたと言う生徒が多かった.

このことからも,ガラス管による観察は生徒の理解を深める上で有効であると思われる.

                                         

 6.おわりに

ポンポン船や水面が振動すること,パイプから水が断続的に出ていることなどは容易に観察できる.

しかし,その観察だけから見えないパイプの中を想像することは難しく,説明を受けてもそれを確認することができないアルミパイプは,ある意味ブラックボックスのようなものであった.言葉からの理解りも,映像からの理解を得意とする現在の生徒にとって,内部の見えるガラス管は有効な手段になると思う.

 今回の授業を通じてポンポン船は予想以上に生徒の興味・関心を引く教材であることが分かった.今後はこの教材を生徒の興味・関心に応じて,選択授業や発展的な学習の時間及びクラブ活動等にも利用して生徒自身が深く探求するよう指導したい.

 

引用・参考文献    

1)NHKやってみようなんでも実験vol.1,日本放送出版会(1996)p100

2)理化学辞典,岩波書店(1998)p668

3)文部省検定教科書「原動機」,実業出版(1998)p102

4)イエ・イ・ネシス:液体の沸騰,日.ソ通信社(1975)p10

5)理科年表,丸善(2000)p471

 

 

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