1.はじめに
おもちゃのポンポン船はブリキで作られた船体の内部に楕円形のボイラーが有り,ボイラー内の水をローソクの炎で加熱して
発生する蒸気を動力として走らせている。
このおもちゃのポンポン船は戦前から多くの子ども達に親しまれてきた。しかし,昭和40年代以降,
ブリキのおもちゃが作られなくなるにつれて,おもちゃのポンポン船も我が国では作られなくなった。
その後,細い金属管をコイル状に巻いてボイラー部にすると,おもちゃのポンポン船と同じ様な走り方をすることが知られ,
金属管をボイラー部とするポンポン船が水蒸気の力やエネルギー変換の教材として広く作られるようになった。

図1 金属管を使用したポンポン船
金属管を使ったポンポン船は図1のように金属管をコイル状に巻いた部分をボイラー部とし,金属管の開口部を船底から水中に入れている。
金属管の内部を水で満たして,ボイラー部を加熱すると,水が管の開口部から噴出・吸入を繰り返えし,ポンポン船は前進する。
この動作を説明するために,ガラス管などを使用して,その動きを可視化する試みがなされているが1),ガラス管の細工が難しかったり,
単純化するためにガラス直管を利用したりしているため,ポンポン船として実際に走らせる船を造ることは難しかった。
そこで,今回は試験管とガラス管を利用して簡単に製作できるポンポン船のエンジンを考案し,内部を完全に可視化したエンジンを製作して
その作動状況を観察した。
2.試験管を使ったポンポン船の製作
(1) 外径4mm,長さ150mmの硬質ガラス管を用意し,端から40mm付近をバーナーで熱し,柔らかくなったら,約120°の角度になるように曲げる。
(2) 外径13mm,長さ90mmの耐熱ガラス試験管と,この試験管の口に合う大きさのゴム栓を用意し,ゴム栓の中央に直径4mmの穴をあける。
(3) (1)で曲げたガラス管の長い方をゴム栓に通す。
(4) ガラス管を通したゴム栓を試験管に差し込み,試験管の底から約20mmのところにガラス管の先がくるように長さを調整する。
(5) 発泡スチロール板を船の形に切り抜いて船体を作り,船体の後部に試験管を通す穴を開ける。このとき,
試験管が船体に対して約30°の角度になるように,斜めに穴を開ける。
(6) 船体に試験管を通し,試験管内のガラス管先端の真下に炎が当たるようにローソクを船体に固定する。

図2 試験管を使用した透明ポンポン船
これで,ポンポン船は完成したので,一旦,ガラス管を通したゴム栓を外し,試験管に水を一杯に入れてから,再度ゴム栓をする。
このとき,ガラス管内にも水が満たされているようにし,水がこぼれないように注意して水面に浮かべ,ローソクに火を点けて,
しばらくすると,試験管内の水が沸騰し,ポンポン船はリズミカルな動きをして水面上を走り,ガラス管の中を水が往復運動するのがよく見えた。
3.作動状況の観察と作動原理の解明
今回製作したポンポン船のエンジン部分の作動状況を観察すると,試験管内で蒸発した水蒸気がガラス管内に入り,
ガラス管内の水をガラス管外方向に押し出す。その後,ガラス管内に入った蒸気が凝縮するので,水が試験管方向に戻ってくる。
戻ってきた水は試験管まで戻らずに,ガラス管内部で往復運動をしていた。
従来,考えられていたポンポン船の作動原理では,
(1) 加熱部で加熱された水は沸騰して水蒸気となり,加熱部と管内の水を開口部の方に押し出す。
(2)加熱部から離れた水蒸気は,そこで冷やされて凝縮するため圧力が下がり,開口部の方へ押し出されていた水は引き戻される。
(3)引き戻された水が加熱部まで達すると再加熱されて,蒸発し,水を開口部の方に押し出す。
という動作が繰り返される。すなわち,蒸発と凝縮が間歇的に交互に繰り返されることによって振動(以後この振動を自励振動という)
が持続していると説明されていた。1),2)
しかし,今回作成したポンポン船のエンジンを観察すると,加熱部では連続的に蒸気が発生しているにもかかわらず,
自励振動が継続して発生しており,従来の作動原理では説明できない。そこで,この動作を解明するために図3のような装置を作って実験を行った。

図3 自励振動測定装置
この装置では試験管は透明ポンポン船の製作に使用したものと同じ試験管を使用し,ガラス管も外径4mm,長さは300mmとした。
加熱条件を一定にするために,加熱部はニクロム線を巻いて,一定の電力で加熱した。自励振動の条件を一定にするために,
試験管およびガラス管は垂直に立て,ガラス管を一定温度(24.5℃)の水中に入れた。実験では加熱量を変化させて,
その時発生する自励振動の振動数と振幅を測定した。
その結果,振動数は加熱量の変化にかかわらず,ほぼ一定で29Hzであった。振幅は図4に示すように,加熱量と直線関係にある。
このことより,加熱量の変化に伴う蒸気のエネルギーは自励振動の振幅の変化として吸収されていることが判った。

図4 自励振動における加熱量と振幅の関係
つぎに,このポンポン船エンジンの蒸気発生量を図5のような装置で測定した。
この装置で使用した試験管,ガラス管およびニクロム線は図3の装置と同じ物を使用し,試験管から外に出たガラス管に冷却器を取り付けて,
ガラス管内に入ってきた水蒸気を冷却してガラス管の下端から落ちる水滴を秤量ビンで受けて,一定時間に溜まった水の重量を測定した。

図5 蒸気発生量測定装置
その結果は図6に示すとおりである。この結果を100℃,1気圧の水蒸気の体積に換算して,
この水蒸気が外径4mmのガラス管(内径2mm)内に吹き込むとした場合のガラス管への流入速度を計算した。

図6 水蒸気発生量
次に自励振動する水柱の運動が正弦曲線に近似出来ると仮定して,先に測定した振動数と振幅から自励振動の平均速度を計算して,
図6の結果から計算した蒸気流入速度と同一の図にプロットすると,図7のようになり,両者は同一線上に乗った。

図7 加熱量と速度の関係
以上の結果から,試験管を使用したポンポン船のエンジンにおいては,試験管内で発生した蒸気はガラス管内に入り,水柱を開口部の方向に押す。
ガラス管内に入った蒸気はそこで冷やされて凝縮するために圧力が低下するが,
試験管から流入する蒸気量が凝縮する蒸気量を上回っている間は水柱を押し出す方向に圧力がかかる。
その後,流入する蒸気量と凝縮する蒸気量とが等しくなった時点で,水柱の開口部方向への動きは止まり,
その後は凝縮する蒸気量が流入する蒸気量を上回ると水柱は加熱部の方に戻ってくる。
水柱が加熱部に近づくにしたがって蒸気の凝縮量は少なくなり,やがて流入量と凝縮量が等しくなった時点で,
水柱は止まり,その後は流入量が凝縮量を上回ると再び水柱を押し出すというサイクルが繰り返されるものと思われる。
このサイクルにおいては流入する蒸気量と凝縮する蒸気量の差が自励振動の運動をコントロールしているものと考えられるため,
図7の結果のように振幅から計算した振動の平均速度と蒸気発生量から計算した蒸気流入速度が一致する結果になったものと思われる。
4.試験管内部の蒸気部分と自励振動の関係
今回製作したポンポン船エンジン内のガラス管の先端を試験管の上底部に近づけると,加熱初期は試験管内の水が沸騰して,
ガラス管内の水を押し出すが,すぐに試験管内に戻り,しばらく水の沸騰は止まった。その後,再度沸騰するという不安定な状態がしばらく続いた後,
試験管上底部に一定量の蒸気層ができると,安定した自励振動が持続した。
このことから,安定した自励振動を持続させるには一定量の蒸気層が必要であることが判った。
蒸気層がない場合はガラス管内の蒸気が凝縮して減圧になると,瞬時にガラス管内の水を試験管内まで引き戻すが,蒸気層が存在すると,
蒸気層がエアーダンパーの役目をするために,ガラス管内の水柱は安定した自励振動が持続するものと思われる。
試みに,蒸気層になる部分にあらかじめ空気を入れておいて加熱すると,まず,空気が膨張してガラス管内に入り,
ガラス管内の水をすべて管外に押し出した。その後,水が沸騰しても自励振動をするべき水柱が存在しないために自励振動は発生しなかった。
このことはパイプ式ポンポン船の作動状況とも一致する。パイプ式ポンポン船においては金属管をコイル状に巻いてボイラー部としているが,
直管の一端を封じたものやU字管でも自励振動は発生する1)。しかし,安定した自励振動を発生させるのは難しい。
そのため,コイル状に数回巻いて使用しているが,これはコイル状に巻くことによって蒸気層の体積を確保しているものと思われる。
また,管内に水を完全に満たさないと,うまく作動しないのは管内に空気が残っていると,
自励振動する水柱部分に空気が入るために自励振動が発生しないと考えられる。
5.水柱の運動に及ぼす蒸気層の影響
ポンポン船のエンジンではボイラー部の蒸気層が水柱の急速なボイラー部への進入を阻止していることを示したが,
蒸気層は水柱が管外方向に運動している場合にもその運動を阻止する働きをしている。先に示したように,
管内の水柱は蒸気の発生と凝縮によって駆動されているが,その運動エネルギーの一部を蒸気層は気体の緩衝作用によって
吸収・放出して,安定した自励振動を持続させていると考えられる。一般に管内を流れている液体を急速に停止させた場合は
液体の運動エネルギーによってウオーターハンマー現象として知られる衝撃が発生する。
ポンポン船のエンジンでは管内を水柱が速い速度で往復運動しているが,運動方向を反転させる際に必要なエネルギーを
蒸気層が吸収・放出して反転運動を円滑に行わせているものと思われる。
この作用をシミュレーションするために,図8のような装置を作って実験した。

図8 気層と水柱の関係測定装置
この装置は水平に置いた外径5mm(内径3mm)のガラス管と垂直に立てた注射器をゴム管で結び,注射器のピストン上に重量80gの重りを乗せた。
ガラス管内に一定量の水を入れて水柱を作った。水柱と注射器先端の間に一定量の空気を入れ,蒸気層の代替とした。流入蒸気の代替として,
注射器から一定量の空気をガラス管内に送り込んだ。ガラス管に送り込む空気の速さは注射器のピストンを自由落下させて一定に保つようにした。
ガラス管内の水柱の動きをデジタルカメラの動画モード(撮影間隔1/30秒)で撮影し,コマ送りで観察し,
同時に,水柱と注射器先端の間の空気の圧力変化を圧力センサーに接続したストレージオシロスコープで測定した。
ガラス管内の水量が1.1ml,水柱から注射器先端までの空気量が1.4ml,注射器からの空気送入量が0.36mlの条件での水柱先端の動きを図9,
水柱と注射器先端間の空気の圧力変化を図10に示した。

図9 水柱先端の運動

図8 水柱と注射器先端間の空気の圧力変化
注射器からガラス管内に空気が流入すると、内部の気圧は上昇(S→A)し、水柱は運動エネルギーを与えられて開口部に向かって運動した(s→a)。
水柱が停止位置を越えて開口部側に行くと、内部の空気が膨張するため、気圧は減少を始め、水柱を内部へ引き戻そうとする力が働き、
その力が水柱の運動エネルギーを上回ると水柱の動きが反転した(A→B,a→b)。反転直後は気圧が減圧状態にあるので、
水柱の運動が加速された(B→C,b→c)。水柱が停止位置を越えると空気の圧縮による気圧増加が水柱の運動を抑制し、
その後、再度反転した(C→D,c→d)。このような運動を繰り返しながら振幅が減衰して停止した。
ポンポン船のエンジン内では蒸気の発生・凝縮が加わるために、この実験のように単純な動作ではないと思われるが、
蒸気層が水柱の運動エネルギーを吸収して水柱の運動方向を反転させ,
反転後は吸収したエネルギーを水柱に与えて運動を加速させる作用をしていることは明らかで、
この作用は自励振動を安定して持続するための重要な要素であると考えられる。
6.終わりに
ポンポン船のエンジンはきわめて単純な形をしており,その作動状況も水柱が管内を往復運動するだけなので一見単純そうに見えるが,
その作動状況を詳しく観察するときわめて複雑で,作動原理の詳細はほとんど解明されていない。
そのため,子供たちが「速いポンポン船を作るにはどうすればよいですか」,「金属管の巻数は何回がよいですか」,
「金属管は太いのと細いのではどちらがよいですか」等の素朴な質問にも明快で正確な回答をすることは難しい。
今回の実験で従来考えられていた作動原理と異なる方法でも自励振動が発生することが確かめられ,蒸気部分の作用の一端も明らかになったが,
解明されていない多くの問題点が存在するので,これからもポンポン船エンジンの作動原理の探究を続けて行きたい。
引用・参考文献
1)水本 豊・樋口 真須人・平田 允:大阪と科学教育,16,17(2002)
2)濱口 和洋・北本 和・小林 豊・山下 巌:応用物理教育,27,53,(2003)